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書評【農業を市場から取りもどす─農地・農産品・種苗・貨幣】
みんなで食と農の未来をつくる
挑戦的なタイトルにワクワクする。なぜ、農業を市場から取りもどさなければならないのか。資本主義経済のもとで農業の市場経済化が進み、暮らしが便利になった一方で、あらゆる生命に対する尊厳の喪失という深刻な事態が起きているからだ。
本書では、生命の再生産に欠かせない農業を市場に取り込んでしまってよいのかという、根本的な問いを投げかけている。そして、「フライカウフ(市場から自由にする)」という発想をもとに、「貨幣」「農地」「農産品」「種苗」の各テーマにおける実践を考察し、「みんなのためになる農業」に接近する。
脱市場経済は、これまで市場が担ってきた機能を当事者が引き受け、信頼に基づく仕組みをつくらなければ成立しない。不便さや手間がかかることは容易に想像がつく。第3章の「連帯農業」で描かれているように、対話を重ねることで「生産者」「消費者」という従来の枠組みが解きほぐされていく様子は興味深い。人々の思考を自由にし、食と農に関わる〈楽しさ〉を取り戻すことが本質にあるのではないか。読み終えると、さらにワクワクしてしまう。そんな1冊だ。
小口広太(2006年国際学科卒、千葉商科大学准教授)
農業を市場から取りもどす─農地・農産品・種苗・貨幣
林 公則(国際学部准教授) 著
日本経済評論社 196頁/3,520円
白金通信2024夏号(No.519)掲載