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自然環境、社会環境の変化に適応する思考力と地球市民として持続型社会の構築に貢献する力を涵養する

2021.03.24

サステイナビリティという言葉をご存知でしょうか? 日本語では「持続可能性」といい、2015年の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)をきっかけに広がった考え方です。「エコバッグやマイボトルを使う」といった身近な行動から、経済格差の拡大、少子高齢化、紛争やテロに至るまで、今、私たちはさまざまな角度から人間と地球の「持続可能性」について考えなければならない時代を迎えています。黒川貞生教授は、持続可能な社会の構築を目指すサステイナビリティ学を通して、激しく変化するこれからの世界を生きる学生が、未知の脅威を乗り越えていく力、未来志向で行動する力を涵養していくことを目指しています。

黒川 貞生 教養教育センター 教授 2000年東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系博士課程単位取得退学。2001年博士の学位取得(学術:東京大学)。2009年より現職。専門分野は、サステイナビリティ学、環境学、バイオメカニクス、運動生理学。社会環境の持続性という切り口から、高齢化社会と健康に着目した研究に取り組む一方、バレーボール競技に特化した動作解析も研究している。男子バレーボール部の監督(国際バレーボール連盟公認コーチ)として、関東大学バレーボール連盟の2部昇格を目指して学生の指導にも汗を流す。

サステイナビリティ学とは何か

人間を取り巻く生活環境、社会環境、そしてその土台となる地球環境は、近年著しく変化しています。私たち人間が、将来にわたって地球で存続していくためには、人間活動と自然環境が調和した持続型の社会を構築していかなければなりません。そのための学問領域が、私の専門であるサステイナビリティ学です。

サステイナビリティ学はまだ新しい領域であり、自然環境のみならず、生活環境、社会環境の持続可能性をも研究領域に含む学問です。「サステイナビリティ」を共通項として気候変動、生物多様性、経済、健康など、さまざまな切り口からアプローチすることが可能であり、自然科学、経済学、社会学などさまざまな学問分野から研究者が集まる、とても学際的な領域でもあります。実は、私自身、生物の体の構造や動きを力学的に研究するバイオメカニクスや運動生理学を専門とする研究者でもあります。

私が担当している「サステイナビリティ学」の授業は、2005年に「環境学」の授業としてスタートしました。当初は、私が長年研究してきた生理学の観点から、環境がヒトの生体に及ぼす影響を中心に講義を行っていたのですが、第1回目の授業で学生に「環境について関心のある事柄」を記述してもらうと、地球温暖化、海洋プラスチック汚染への関心を示す比率が年々高まっていました。そのニーズに対応する形で講義の内容を変え、現在は、地球温暖化、環境ホルモンや農薬が人体に及ぼす影響、気候変動と健康、福祉、少子高齢化など、多岐にわたるテーマを取り上げて、学生がサステイナビリティについて自ら考える材料を提供しています。

「環境問題」としての高齢化と健康寿命

現在の日本にとって非常に重要な社会環境の問題の一つに、少子高齢化があります。高齢者の健康問題は、労働力の減少、医療費の増大など、社会の「持続」に大きな影響を及ぼすことが予測されています。つまり、高齢化と健康は、とても身近な“環境問題”であるといえるのです。そこで最近は、高齢者と健康の問題、特に「認知機能と身体運動の関係」をテーマに研究をはじめています。

高齢者の健康寿命を縮めてしまう三大要因として、ロコモティブシンドロームメタボリックシンドローム、そして認知症が挙げられています。それぞれの予防には身体運動が効果的だとする研究成果が示されていますが、私は特に認知症に注目し、どのような身体運動が認知機能の改善を促すのかについて、興味をもっています。

認知機能をつかさどっているのは、脳の中でも記憶に関係する海馬と呼ばれる部分です。海馬は加齢とともに緩やかに縮小し、認知症になると大きく萎縮することが分かっています。これまでの研究で、いくつかの身体運動が海馬の大きさの改善に効果的であるという報告がなされているのですが、どのような身体運動がより効果的なのかについては、十分に検討されていません。そこで私は、ウォーキングなどの単純な身体運動より、複雑な動きをするダンスや、ゲーム性のある対戦型のスポーツがより効果的だと考え、その検証を進めています。

2040年の日本は、現役世代1.5人で1人の高齢者を支えなければならないというシミュレーションがあります。高齢者が認知機能をそこなわず、身体的にも精神的にも健康でいることができれば、有償・無償の生産活動に参加して、社会を支える力となります。認知機能の低下、要介護状態の予防に効果的な運動を解明することは、社会全体の持続可能性に貢献し、いずれ高齢者となる私たち一人一人のQOL(生活の質)の向上にも繋がると考えています。

持続型社会に貢献する教養教育

2018年度から、明治学院大学教養教育センターでは、LLTSプロジェクトをスタートさせました。LLTSとは「Learning to live together sustainably」の頭文字を取ったもので、持続可能な社会の構築に必要な地球市民としての教養を、学生に身に付けてもらうためのプログラムです。私は、このプログラムに立ち上げ当初から参画し、サステイナビリティ学の教員として、講義の企画などに携わっています。

プログラムでは、「グローバルシチズンシップ」科目群、「サステイナビリティ学」科目群を開設し、環境問題や国際課題の解決を目指して活動する実践家の方々を講師に招いて講義を行っています。また、座学で学んだ知識を実践に繋げるため、現場でリサーチを行うようなスタディツアーも検討しているところです。

さらに、プログラムに関わる教員自身も、サステイナビリティーに関わるテーマの調査研究を積極的に行っています。私は、海に流出したマイクロプラスチックが生物に及ぼす影響や、サンゴの白化現象に注目し、海外での調査にも取り組んでいくつもりです。現場を自分の目で見て、自らの手で調査し、そのデータを使ってより説得力のある授業を展開していきたいと考えています。

サステイナビリティ学は未来を変える

サステイナビリティ学は、知識を学ぶことももちろん大切なのですが、それ以上に、行動することが大事な分野です。私の授業を受けて海洋環境保全に興味を持ち、在学中にウミガメの保護活動を始めた学生がいるという話も聞いています。今日自分が買ったペットボトル飲料と、マイクロプラスチックで汚染されるハワイの海岸を結びつける洞察力を持ち、問題解決を目指して行動に移す。そんな「Think Globally ,Act Locally」の精神を持ってほしいと願っています。

サステイナビリティ学は、決して理系の研究者のみの学問領域ではありません。文系の学生も、サステイナビリティ学の学びを背景に、たとえばジャーナリストとして地球環境や社会環境の真実を伝え、理解を広げる役割を担うことができるでしょう。学生がサステイナビリティに関心を持ち、学び、「持続可能な社会のために」という視点を持って職業や人生を考えてくれるようになってくれたら、授業担当者として、とてもうれしいことです。

これからの世界は、おそらく過去のどの世代も経験したことのない、激しい変化に直面することが予想されます。今までのデータがあてにならないような、未知の問題も次々と起きるでしょう。しかし、地球上の全ての人が、持続可能性について正しい知識を持って行動すれば、100年後の未来は変わります。たとえば、明治学院大学の多くの学生がペットボトルの使用削減を目指し、マイボトルを率先して使うようになれば、そのムーブメントが地域に普及し、マイクロプラスチック問題の改善に大いに貢献できます。そうした行動を通じて世に訴える力を持っているのが、サステイナビリティ学なのです。未来が分からない時代だからこそ、学生には広く環境に対する十分な知識を持ち、変化に対応できる判断力と行動力を涵養してほしいと思っています。

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明治学院大学は、研究成果の社会還元と優秀な研究者の輩出により、社会に貢献していきます。


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