もともと法律や法学に強い興味があったわけではなく、大学受験時に数学が苦手だったので消去法的に京都産業大学法学部を選びました。学部生として学んでいた時期に新たに消費者契約法が施行されたことを知り、漠然とではありますが消費者法に興味を持ちました。ただ、大学卒業後はしばらく学業から離れており、本当にやりたいことも見つからない中で、もう一度学び直して研究者としての道を目指そうと決心しました。自分のやり方で調査・研究を進め、自分なりの研究成果や意見を社会に発信していける研究者が自分には一番向いていると思ったのです。そこで、大学時代にお世話になった先生に相談したところ、「これからの法学分野では大学院修士課程に行くよりもロースクールから博士課程に進むコースがメインになるはず」とアドバイスをいただき、京都産業大学のロースクール(大学院法務研究科)に入学することにしました。
ロースクール入学後は学部生の頃に興味を持った消費者法を中心に学習・研究を進めていましたが、博士後期課程への進学を希望したところ、民法・消費者法の権威である加賀山茂教授の弟子筋にあたる先生から加賀山教授の指導を受けることを勧められました。当時、加賀山教授は明治学院大学大学院に在籍しており、他の先生方からも「民法や消費者法を研究するのであれば、明治学院大学で加賀山教授の指導を受けるべき」とアドバイスをいただき、明治学院大学大学院法学研究科法律学専攻の博士後期課程に進学しました。明治学院大学は法学部に消費情報環境法学科が設置されていて、消費者法関連で実務経験も豊富な先生方が多く在籍していたので、自分でも学習・研究する環境として最適だと感じていました。
消費者法分野では消費者契約法に基づいた消費者団体訴訟制度(差止請求)が2007年4月からスタートし、私も興味をもって動向を注視していたこともあり、「消費者団体の差止請求権についての研究」を研究テーマとして決めて博士後期課程での学習・研究活動を進めていきました。差止請求権とは消費者契約法などに違反する事業者の不当な行為に対して差止請求できる制度のことですが、直接的な被害者ではない消費者団体がなぜ差止請求する権利があると言えるのかについて基本的な法解釈を追究していくことが私の研究目的でした。まだ制定されて間もない制度だったので解説本や先行研究もほぼない状態の中、手探りで研究を進めていきました。
指導教員の加賀山教授からは「3年間で論文を仕上げなさい」とアドバイスをいただき、その論文執筆の過程で研究テーマに関する知識を得ることができたのはもちろんですが、それとともに民法や消費者法に関する知識や関連性のある専門分野以外の知識を得ることができました。また、明治学院大学や他大学の先生方、大学院生たちと交流できたことも大きなメリットでした。法学部の共同研究会では民法、民事訴訟法、商法などさまざまな分野の先生方の意見を聴くことで多角的な視点を養うことができました。他大学での研究会にも参加することを認めていただき、専門・専門外に拘わらず広く法学の知見を得る機会に恵まれました。一方、明治学院大学の法学部には「特別TA(Teaching Assistant)制度」という他大学にはない制度が設けられていて、大学院生が学部生の質問や相談に対応するというシステムで、大学院生はアルバイトとして参加することになります。私もこの制度に参加して担当した学部生に対して授業内容や勉強方法について質問に答えたり、レジュメやレポートの作成方法を指導したりする中で、民法などの基礎的な知識を改めて理解し直す良い機会にもなりました。また、TA制度に参加している他研究室の大学院生と知り合い、他分野の研究に関する話を聞きながらお互いに情報交換できたことも良い経験でした。
明治学院大学大学院での研究成果となる博士論文の完成度については、決して大満足とはいきませんでしたが、自分なりにできることはやり遂げたと感じています。大学院修了後は明治学院大学でのTAを継続するかたわら、他大学の非常勤講師などを務め、現在は高千穂大学准教授として講義と研究活動に従事しており、明治学院大学でも非常勤で一般教養科目を担当しています。明治学院大学大学院では専門分野について知識を深めるだけでなく、専門分野以外の知識も得ることができ、現在担当しているさまざまな講義に活かせています。明治学院大学で担当した「法学1・法学2」の講義で専門の民法以外にも憲法や刑法、その他の社会問題に関する法律について解説できたこと、高千穂大学で2023年度に担当した「総合科目」では「消費生活と法」というテーマのもとで消費者契約法などについて講義できたこと、大学院時代の研究会で知り合った先生方をゲストスピーカーに招いた講義を複数回にわたって実施できたことなど、大学院で得た知見と人脈は現在の仕事と研究に大いに役立っています。
また、明治学院大学大学院での3年間を通して、私自身、法律を学習・研究する面白さを改めて実感することができました。法律は現在起こっている問題を解決に導くものですが、法律という基本的には変わらない大前提をどう解釈して結論を導き出すかというところに法学を学ぶ醍醐味があります。それは論理的思考力を養うことにつながり、さまざまな物事を議論する上で大いに役立つものです。日本の民法などは約120年前に制定されていて、当時では想定できない現在の問題にどう当てはめていくかを考えるのは楽しいですし、そこで自分だけのオリジナリティをアピールすることもできるのです。
明治学院大学大学院は少人数制で先生方と親密に接することができるところが大きな魅力です。先生方も大学院生を一人の研究者として扱い、その言葉をしっかり受け止めて応援してくださいます。そして、大学院は学部と違って自分のやりたいことをトコトン追究することができる場所です。私のように大学を卒業して一度社会に出てから戻ってくる人も多いので、学部4年からそのまま大学院という既存の進路にこだわらず、自分のやりたいこと、学びたいことが見つかった時にチャレンジしてください!